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100 キロの具材を炊きあげる大型の圧力回転釡
2020年11月
大勝軒しのや
杉島 拓郎さん
「杉戸の職人」と聞いて、何人の顔が思い浮かぶだろう。よく行く店の店主や取引先など、私たちが日常的に関わることのできる仕事相手は、実はそれほど多くない。けれど、町をつくっているのはまぎれもなく人であり、もっと言えば誰かの仕事だ。代々受け継がれてきた技術、町の産業に着目して立ち上がったブランド、「地元で独立したい」と起業した人々̶。知れば思わず自慢したくなる、この町の仕事人たちを紹介しよう。
私の相棒
100 キロの具材を炊きあげる大型の圧力回転釡
麺はもちろん、チャーシューやメンマまで手作りにこだわる「大勝軒しのや」。
自家製スープの仕込みに欠かせないのが、ラーメン激戦区でもなかなかお目にかかれないという大型の圧力回転釡だ。
丹念な仕込みがうまさを引き出す
早朝5時。店長の杉島さんが店の厨房に立つ時間だ。ひっそりとした店内で、ひとり仕込みに取りかかる。「大勝軒しのや」のスープには、鶏や豚、野菜、魚介など、さまざまな材料が使われている。その量、なんと計100 キロ。杉島さんはその一つ一つに、水洗いや血抜き、下茹でなど、必要な下処理を行っていく。「どんな食材でも、しっかり下処理をして煮出すとおいしくなるんです。反対に、処理が甘いとスープに余分な雑味や臭みが出ちゃう。この差を知ってるから、手は抜けないですね」。
うまみを引き出す準備が整ったら、12 時間ほど煮込んでいく。使うのはこの店の相棒、大型の圧力回転釡だ。こうして仕込んだ大量のスープは、一日でなくなってしまうというから驚きだ。
店名にある「大勝軒」は「つけ麺」発祥の店と言われる有名店で、しのやは、そののれん分けにあたる。杉戸町での出店は、地元出身のオーナー・篠崎さんの念願だったそうだ。出来合いのものを使わない大勝軒のラーメン作りに感銘を受けた篠崎さんは、修行を積み、2008 年にしのやをオープン。当時はつけ麺を扱っている店がまだ少なく、地元の人にぜひこの味を知ってほしいと、精力的に活動した。
「朝ラー」人気で新たな悩みも…
そんなオーナーが信頼を寄せ、しのやを託した相手が杉島さんだ。さまざまな繁盛店で店長を務めた経歴を持ち、店の運営経験も豊富。作るのも食べるのも好きというラーメンひと筋の杉島さんだが、一度だけ、ラーメン作りを離れたことがあるという。「母親が事故に遭って、介護のために地元へ戻ったんです。単価の高い料理を作れるようになっておいた方がいいと思い、寿司屋や割烹店で働いてました」。
だけどやっぱり、ラーメンが好きだった。「麺からスープまで、ぜんぶ自分で作れるのが気持ちいいんですよね」。ラーメン屋は、若くてもお客さんに出す一杯を最初から最後まで作りきることができる。そのやりがいこそ、杉島さんがラーメン屋になろうと思った原点だ。「同じ材料を使っても、人によって味は変わるんです。自分が作ったラーメンが一番おいしいっていう自信があるから、押さえるべきところは全部自分がやってますね。正直な話、いろいろ重労働だし面倒くさい(笑)。でも、いいものを作りたくて、結局朝5 時から店に来ちゃうんですよね」。
【写真】元祖「つけ麺」はもちろん、定番の中華そばもおすすめ。背脂と魚粉を混ぜた「味脂(あじあぶら)」(別途トッピング料金)を加えるとスープの深みが増して味変を楽しめる。
朝の交通量が多いことに着目し、しのやでは今年4月から「朝ラー」を始めた。開店準備をしている間に少しでも来店があればいいと考えていたが、予想に反して朝ラーは盛況。開店を早めた分、閉店時間を思いきって早めようとも思ったが、お客さんのことを思うとそうもいかない。結局、以前よりずっと忙しくなってしまった。「毎朝眠いし大変ですよ(笑)。でも、好きでやってます」。杉島さんは葛藤を笑い飛ばして、今日も厨房に立っている。
【 大勝軒しのや 】
所在地:杉戸町北蓮沼497
電話:0480-38-4545
営業時間:7:00-15:00/17:00-21:00(スープがなくなり次第終了)
定休日:火曜定休(祝日の場合は翌日休業)
駐車場あり
※本サイトでは情報紙「スギトゴト」で紹介された内容の一部をWEB 用に編集して掲載しています。
2020年11月発行/発行元:杉戸町商工会/協力:杉戸町/ 制作:mARu design room / 文:大吉紗央里 / 写真:小塚照美