本文
若き店主を支えたのは額に掲げた「ナンバープレート」
2023年5月
フレッシュやおいち
福澤 孝一さん
「杉戸の職人」と聞いて、何人の顔が思い浮かぶだろう。よく行く店の店主や取引先など、私たちが日常的に関わることのできる仕事相手は、実はそれほど多くない。けれど、町をつくっているのはまぎれもなく人であり、もっと言えば誰かの仕事だ。代々受け継がれてきた技術、町の産業に着目して立ち上がったブランド、「地元で独立したい」と起業した人々̶。知れば思わず自慢したくなる、この町の仕事人たちを紹介しよう。
私の相棒
若き店主を支えたのは額に掲げた「ナンバープレート」
限られた資金をやり繰りし、いかにいい商品を手に入れるか。病気の父親に代わり、二十歳で一家の大黒柱となった福澤孝一さんが事業を成すための生命線は市場での仕入れだった。額に掲げたナンバープレートは、半世紀をともにした相棒だ。
駅前通りは青果店の激戦区
東武動物公園駅東口駅前通り。バスや車が歩道すれすれを行き交うこの通りは、かつてにぎやかな商店街で、多くの青果店が並んでいたという。
その中で、現在も営業を続けているのはわずか2軒。旧日光街道との交差点に建つ「フレッシュやおいち」は、そのひとつだ。
初代の祖父が創業した「八百市(やおいち)」は、海産物の乾物屋。二代目の父は、青果店と仕出し料理屋を兼業していた。その背中を見てきた福澤さんは、いずれ自分も独立するつもりで、高校卒業後に大手青果店へ見習いに出る。
ところが、二十歳の頃に父が倒れ、介護が必要な状況になってしまう。まだ妹が高校生で、弟が中学生の時だった。「長男の私が家を支えるしかありませんでした」。
こうして福澤さんは稼業を継ぎ、青果専門店「フレッシュやおいち」として独立することになった。
「正直なところ、この場所ではやりたくなかったんですよ」。それもそのはず、周囲には同業者が10 軒以上。若手の福澤さんが入り込む余地はなかった。新顔なので卸売市場での仕入れも思うようにいかない。それでも、事業者番号が記された「ナンバープレート」の帽子をかぶり、必死に買い付けを行った。このプレートは、持っている者だけが市場への出入りを許される、父から受け継いだ信頼の証なのだ。
父から子へと受け継がれるもの
やがて移動販売に活路を見出した福澤さん。店を切り盛りして約半世紀が過ぎた。時代とともに顧客のニーズや買い物の仕方にも変化が訪れる。
交通量が多い駅前通りは車での来店が難しく、この場所での営業は「そろそろ潮時かも」と福澤さんは感じていた。加えて、通りの再開発計画により、フレッシュやおいちはセットバックを余儀なくされる。「子どもたちも巣立ったし、60 歳で引退するつもりでした」。ところが、息子夫婦が後を継ぎたいと言ってくれたので、それならいい形で渡せるようにしたい、と新たな展開を考えるように。
【写真】フレッシュなのは、店頭で働く人たちの笑顔。 一人ひとりがこの仕事を楽しみ、誇りを持っている。
そんな矢先、コロナ禍が店を襲う。対面での販売が全くできない状況が続き、売上は低迷。福澤さんが苦慮するなか、息子夫婦とパート従業員の若手たちが打開策を講じた。「役場で販売してきまーす!」と杉戸町役場に許可を得て、軽快に移動販売へ繰り出したのだ。
さらには、近隣のコンビニエンスストアにも営業をかけ、委託販売の仕事も受けることに。この動きによって、新たな出会いが始まる̶コンビニで購入したお客さんが、質が良くておいしかったと、商品に貼られたラベルの店名を見て、直に足を運んでくれるようになったのだ。
【写真】毎週杉戸町役場前で移動販売を開催中。良質な商品を求めて続々とお客さんが訪れる。(毎週月曜日12:00~杉戸町役場前)※開催日時は取材時のものです。詳しくはお店へお問い合わせください。
【写真】しっとり甘くておいしい、軒先の焼き芋は店の看板商品。通る人たちを香りで包む。
「商売は時代によって変わるのが当然。若い人たちの思うように自由にやればいい。我々はどこまでもそれに合わせて行きますよ」。若手時代の苦労を知るからこその言葉だ。
帽子のナンバープレートと共に、逆境を乗り越える力も、父から子へと受け継がれて行くのが垣間見えた。
【 フレッシュやおいち 】
所在地:杉戸町杉戸3-1-9
電話:0480-32-0076
営業時間:9:30-13:00
定休日:日曜日・祝日
駐車場あり(1 台)
※本サイトでは情報紙「スギトゴト」で紹介された内容の一部をWEB 用に編集して掲載しています。
令和5年5月発行/ 発行元:杉戸町商工会 / 協力:杉戸町 / 制作:mARu design room / 写真:小塚照美 / 取材:宍戸ゆみ