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世界とつながる『宿』を目指して 「八百宿」からの移住生活
2024.11.28
八百宿・管理人
細井 愛(ほそい・あい)さん
東京都出身の細井愛さん。かつて宿場町だった杉戸町に残る古民家を改修して、2023年に地域コミュニティの拠点として「八百宿(やおやど)」をオープン。翌年には家族で杉戸町への移住を決意しました。普段はフリーランスのデザイナーをしながら、拠点の管理人として運営する細井さんですが、「八百宿」をつくるまで杉戸町のことは何も知らなかったと言います。そんな細井さんに、移住して手に入れた理想の暮らしとこれからの夢についてお話を伺いました。
Q. 以前からコミュニティづくりを考えていた?
はじめは、コミュニティとしての拠点づくりは目的ではありませんでした。2021年、偶然目にした「リノベーションスクール杉戸」の告知に興味を持ったのがきっかけです。『空き家などを活用して事業を考える』という内容が面白そうだったので、そのテーマについて学んでみたいと思ったんです。本当は、夫の実家があるさいたま市岩槻区でも同スクールの募集が出ていて、そちらの受講を検討していました。けれど出産の時期と重なったため参加を断念。産後のタイミングで応募できたのが、たまたま杉戸町だったんです(笑)。町のことは何も分からず、まさかここで拠点を持つなんて…そのときは考えもしませんでした。
Q. 現在の拠点となった古民家との出会いは?
リノベーションスクールで私たちの対象物件となったのが、築100年の古民家「旧渡辺金物店」でした。参加者の中に、古民家を活用してお店をやりたいという人がいて、自分も一緒に宿泊所をやれたらいいなと考えました。みんなでいろいろなプランを練り、まずは実験的に使わせてほしいとオーナーさんに交渉。地域の方や大学生の力も借りて、建物内の掃除や片付けなど、できるところからスタートしました。
【写真】左:営業当時の旧渡辺金物店 /右:実験的に軒先でイベントや物販を開催した様子
1年半ほど不定期でイベントや販売実験を試み、オーナーさんを交えて何度も話し合いを持ちました。当初のプランから再考する必要があったので、まずは地域の方が利用できるレンタルスペースを立ち上げることに。自分が運営の管理人を務めることを決意し、2023年5月に「オープンシェアスペース・八百宿」としてスタートを切ることができたのです。
Q. 「八百宿」で目指していることや叶えたい夢は?
レンタルスペースとしてオープンしましたが、私の中で『宿(やど)』をやりたいという気持ちは消えていませんでした。20代の頃に1年間、バックパッカーとして一人で南米全土を旅したことがあるんです。宿泊先は、あえて安宿のゲストハウスばかり。旅費を抑えられるだけでなく、旅行者同士の交流も魅力の一つだったからです。
南米を旅していて一番楽しかったのは、現地で普通の暮らしを体験できたこと。ホームステイ先のペルーでは、家族と同じ食卓を囲み、一緒に公共バスで移動して、当たり前の日常を同じように過ごしました。さらにブラジルでは、エコヴィレッジという環境に配慮した暮らしを実践するコミュニティにお邪魔し、複数の家族同士が農園を営みながら文化を築いている姿に感銘を受けました。「大家族のように助け合いながら、お互いを受け入れられる場所で暮らしたい」そんな理想を抱くようになったんです。
【写真】徐々に手をかけながら現在までリノベーションを重ねた様子
国境も人種も関係なく過ごした旅先での時間は、ずっと記憶に残っています。その国のことを理解するには、その国の人と友達になるのが一番いい。そんなきっかけの一つに『宿』があると思うんです。「八百宿」でもそういった空間を作りたいですね。ここでの交流が草の根の平和運動につながって、私なりの社会貢献ができたらいいな、というのが夢です。
現在のレンタルスペースから、気ままに滞在できる『一棟貸しの古民家宿』を目指して、宿泊できる「八百宿」へとリニューアルを進めています。
Q. 移住の決め手と実際の住み心地はどうですか?
これから宿泊施設を運営することを考えて、「八百宿」の近くで住まいを探していました。ずっと気になっていた空き家の物件があり、DIYが好きな夫も賛成してくれたので、移住は即決。その物件が売りに出たタイミングで購入することを決めました。
子育て環境は、保育園が駅から徒歩5分圏内にあり、我が家からも近くて助かります。保育園のすぐ隣には「ココティすぎと」の広場があるので、お迎えのあと遊ばせて帰ることもできます。週末になると何かしら近隣でイベントが開催されていたりするので、遠出しなくても家族で楽しめるのがいいですね。
杉戸町での暮らしは理想的で大満足です。私は近隣に知り合いが欲しいと思っていたのですが、以前住んでいた地域ではあまり多くの人と知り合うことができませんでした。でもここでは、自然に顔見知りが増えていき、まちなかでバッタリ会えたりすると嬉しくなるんですよね。
特に災害時など、地域に顔見知りがいると心強いというのを実感したことがあるんです。
東日本大震災の直後、ボランティアで被災地を回ったことがあります。都市部の市街地では、比較的援助を待つ人が多いのに対し、郊外の農村地域に住む人たちは援助が来る前に、自分たちで水を引いたり、炊き出しをしたりと積極的な姿に驚かされました。万が一のときには、ご近所付き合いがあると日頃から共助の精神が身につくのかもしれません。今の私にとって、杉戸町での暮らしはそんな安心感を与えてくれています。
Q. これから杉戸町でやってみたいことはありますか?
杉戸町は海外だけでなく、国内でもまだよく知られていない、小さな町。「八百宿」はそんな小さな町にある唯一の宿を目指しています。いずれは「なぜここに?」というくらい各地から旅人が訪れる景色を作りたいですね。ここなら、かつて私が南米で経験したような、現地の人と同じ、普段の暮らしを体験できるフィールドがあると思うんです。
杉戸町って「何もない」と思われがちだけど、逆に目立った観光地でないところがいい。地域の人と触れ合う時間、商店や農家の仕事を学べるワークショップなど、杉戸町の素朴さや日常の暮らしを『体験』として提供できる可能性にあふれていると思うんです。
【写真】八百宿で行われてきたワークショップやイベントの様子
いずれは地元の人たちが気軽に立ち寄れるカフェも併設したいですね。杉戸町に居ながら世界中の人たちと交流できちゃう、さらに違う視点で杉戸町の新しい魅力を再発見…そんな出会いの生まれる場所に「八百宿」がなれたらいいなと思います。
【オープンシェアスペース・八百宿】
(やおやど)
所在地:埼玉県北葛飾郡杉戸町杉戸1-3-16
営業日時などは下記の外部リンクをご確認ください。
https://yaoyado.com<外部リンク>
【担当】総合政策課 政策行革担当